賃金の引き下げ

2012年4月5日 掲載

 業績悪化を理由に、賃金の引き下げを検討する企業は少なくありませんが、実施するのはかなり難しいといえます。以下では、その方法について検討していきます。

1.個別の合意

 まず、賃金引き下げの対象者から、賃金の引き下げの同意または賃金の一部放棄の同意を得る方法が考えられます。こうした同意も一般的に有効ですが、後日の紛争発生に備え、口頭による同意ではなく、書面で同意を得ておくべきでしょう。賃金引き下げの必要性と合理性が認められることが前提となることは言うまでもありません。

2.就業規則の変更

 次に、多くの企業では就業規則で労働条件を定めており、賃金に関する事項もそこに定められています(労基法89条2号)。使用者は就業規則を変更することで、個々の労働者の同意を得ないで労働条件を変更することが可能です。
 しかし、この場合においても、変更の必要性、内容の合理性、代償措置・経過措置等の有無、労働組合等との交渉の経緯などが考慮されるため、無制限に認められるわけではありません。

3.変更解約告知

 新たな労働条件による再雇用の申出を伴った労働契約の解約告知のことで、新たな労働条件(賃金引き下げや身分の変更)に同意しなければ解雇する、というものです。このような場合、整理解雇に準じ、要件が備わっているかが検討されます(整理解雇参照)。整理解雇の要件のほうが、就業規則の不利益変更の要件よりも厳しいため、賃金引き下げの方法としては、実用性に乏しいといえるでしょう。

4.身分の変更

 契約期間の定めのない正社員から契約期間の定めがある契約社員への変更など、労働者の身分を変更し、間接的に賃金の引き下げを行う方法です。これについても、労働者の合意または就業規則等に要件を明示することが必要とされており、それらを欠く場合には無効となる可能性があります。

5.給与体系の変更

 年功序列的な給与体系を能力給の体系に変更することで、間接的に賃金の引き下げを行う方法です。この場合、労働者によって利益変更にも不利益変更にもなり得ますが、裁判例は、変更の合理性は認めつつも、代償措置・経過措置等の有無、労働組合等との交渉の経緯などを考慮しつつ、有効・無効を判断しています。

 以上のように、いずれの方法による場合も、使用者による一方的な賃金の引き下げは、無効とされる可能性が高いといえます。また、多くの場合、経過措置として数年程度の期間が必要とされますので、人件費の抑制は、長期的な視点に立ち、労使で協議を行い、理解を得ながら進めていく必要があります。


上記内容は掲載日時点の法律に拠っています。最新の情報ではない可能性がありますのでご注意ください。