決議事項の上程及び審議(8) ~自己株式取得の件~
2014年4月16日 掲載
○自己株式の取得
自己株式の取得とは、株主から自社株式を譲り受けるのと引き換えに対価を支払うことです。自己株式の取得には、剰余金の配当と同様に、株主に対して金銭等を交付する意味があります。
自己株式の取得については、会社法及び会社法施行規則により様々な場合が想定されています(会社法155条、会社法施行規則27条)が、株主との合意による有償取得(会社法155条3号、156条以下)の場合が多いです。
株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得する場合で、すべての株主に申込機会を与える取得である場合には、
- 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、
- 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く)の内容及びその総額、
- 株式を取得することができる期間(一年を超えることができない)
を、あらかじめ、株主総会の決議によって、定めなければなりません(会社法156条1項、2項)。この場合の株主総会決議は普通決議で足ります(309条2項2号かっこ書参照)。
株主総会決議を得られた後、具体的に自己株式を取得する際には、取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)、株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額、株式の譲渡しの申込みの期日を取締役会決議等により決定することとなります(会社法157条)。
そこで株主との合意により自己株式を取得する場合、株主総会決議を得た場合には、決議をした旨を株主総会議事録に記載する必要があります。
●具体例
第●号議案 自己株式取得の件
議長は、本議案について、ストックオプション・代用株式及び処分・消却等に充当するため、平成○年○月○日から平成○年○月○日までに、当社普通株式○○○○万株、取得価額の総額○○○億円を限度として、自己株式を取得したい旨の説明をした。
次いで、議長は本議案の賛否を議場に諮ったところ、出席株主の議決権の大多数(議決権行使書による賛成株主□□□□名、その議決権数□□□□□個を含む)の賛成を得たので、本議案は原案どおり可決された。
上記具体例は、
- 取得する株式の数、
- 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、
- 株式を取得することができる期間を明示した上で決議がなされたこと
を簡潔に記載しているので、十分な具体例であるといえます。
○すべての株主に申込機会を与える取得以外の取得方法
すべての株主に申込機会を与える取得については、上記で説明してきました。それ以外にも特定の株主から自己株式を取得する手続(会社法160条)や子会社からの取得(会社法163条)、市場取引等による取得(会社法165条)があります。
●特定の株主から取得する場合
特定の株主から取得する場合には、すべての株主に申込機会を与える場合に記載した
- 取得する株式の数、
- 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、
- 株式を取得することができる期間
という(1)~(3)の事項以外に、特定の株主から自己株式を取得する旨を株主総会の特別決議により決議をしなければなりません(会社法160条1項、309条2項2号)。
したがって、株主総会議事録には、(1)~(3)以外に特定の株主から自己株式を取得する旨の事項及び決議が特別決議でなされたことの記載が必要となります。
●子会社からの取得
子会社から取得する場合には、
- 取得する株式の数、
- 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、
- 株式を取得することができる期間
という(1)~(3)の事項を取締役会決議で決定することで足ります(会社法163条)。
したがって、子会社から取得の場合には株主総会決議が不要であるため、株主総会議事録への記載も不要となります。
●市場取引等による取得
市場取引又は公開買い付け(金融商品取引法27条の2第6項)の方法で会社が自己株式を取得する場合には、
- 取得する株式の数、
- 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、
- 株式を取得することができる期間
という(1)~(3)の事項の事項を株主総会決議するだけでいいとされています(会社法165条1項)。
したがって、市場取引等による取得の場合にも、株主総会の普通決議が必要(309条2項2号かっこ書参照)であることから、株主総会決議がなされた場合には、株主総会議事録にもその旨の記載が必要です。
○市場取引等で自己株式を取得することを取締役会で定めることができる旨を定款で定める場合
取締役会設置会社では、市場取引等で自己株式を取得することを取締役会で定める((1)取得する株式の数、(2)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、(3)株式を取得することができる期間を取締役会決議で定める)ことができる旨を定款で定めることができます(会社法165条2項)。この場合には、定款変更の手続を行う必要があります。
○自己株式の取得状況
自己株式の取得状況については、株主資本等変動計算書に記載し、株主総会に報告します(会社法435条2項、438条3項)。報告をした場合には、その旨を株主総会議事録に記載します。
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