講座の特色
プロジェクトベースの学習
講座の1コマは、2時間です。したがって、数ページの英文契約書でも、これを逐語訳的に解説していけば時間がすぎてしまいます。他方、実際に「仕事」をしている英文法務の実務家にとっては、2・3ページの英文契約書を取り扱って済むことは希で、実際には、30ページないし50ページにわたる英文契約書を、それも複数、相手にしなければなりません。
したがって、この「2・3ページ」の英文契約書書式と、実際の50ページ、100ページの契約書を相手にする実務とのギャップを、どう架橋するかが問題となります。
さらに、英文法務の需要という点からみると、契約書だけではなく、定款、諸種招集通知、議事録等の英語化を求められるとか、就業規則の英語版の作成を依頼されるとかの事情もあり、「英文契約書」の「契約書」の部分にだけ対応するのは不十分だという現状もあります。
そこで、英文契約書をメインにすえながらも、その周囲、その前後にまで視野を広げて、実際の英文法務の需要に即したアプローチをしてみたいと思っています。
例えば、【ジョイントベンチャー契約】の場合を検討してみましょう。
- ジョイントベンチャーを(日本の)株式会社の形態で設立する場合(事前に設立しておく場合を含む)、ジョイントベンチャー契約書は、規定内容は、応用「会社法」ですので
→(日本の)会社法を自分なりに英語レベルで理解しておく必要がある(要点:日本の「会社法」の英文訳を、受動的に利用する態度では、十分な対応はできない) - ジョイントベンチャー契約書の付属書類には、設立される会社の「定款」を添付するが
→英語版の定款を作成できるようになっていなければならない(要点:外国人にも理解してもらえるように、定款を英語化する作業をおこなわなければならない) - ジョイントベンチャー契約書の締結には、社内手続として取締役会の承認がいるが、一方当事者の会社が海外企業であった場合、
→取締役会の招集通知(議案の説明を含む)、議事録を作成する、出資された資金の会計上の処理(資本計上)の証明書等を英文で作成する必要がある(要点:外国人にも理解しやすいように書面を作成する必要がある) - 海外企業が資本を出資するジョイントベンチャー企業が、日本で事業を営むにあたっては、
→諸種の就業規則等を英文で作成しなければならない(要点:「就業規則」に類似するものが英米ではあっても、労働法制・労働慣行は各国で異なっていることが多い)

ことになります。ジョイントベンチャー契約書には、技術提携契約書(諸種ライセンス契約)が、これもまた、付属書面として添付されることがありますが、そのような場合には、技術提携契約についての検討も、本来は必要となってきます。
つまり、周囲を取り囲んでいる問題の状況を認識しながら、英文法務の能力を構築していくことが、もっとも重要であるとともに、効果的な戦略となると言えます。
段階的な学習
前段で、総合的な視野にたった学習の重要性を指摘しましたが、他方、それに至るまでの準備も重要になります。この準備のためのアプローチは、プロジェクトベースの学習一つ一つを組み上げている「構成要素」を、これもまた一つ一つマスターしていくことになります。
実務上必要となる英文契約書の基礎知識としては、
- 動産売買契約(財貨交換)
- 不動産契約(売買・賃貸借)
- ライセンス契約(技術利用)
- 役務提供・利用契約(役務)
- 企業提携契約(企業提携)
- ネットワーク契約(ネット取引)
があり、これらの契約書を学習の基礎として、その上により高度な内容を盛っていったり、あるいはこれら基本的な契約書内の条項との対比で、より特殊化した契約書の内容を把握していく方法が推奨されます。これらの中でも、動産売買とライセンス契約は、英文契約書への入門教材として最適でもあり、また重要なものでもあります。
ケースベースの学習
ある日本企業の製品の使用中に、米国で火災が起こったとします。被害者が米国で訴訟を提起し、訴状が送達されてきたとしましょう。このような状況を設定してこそ、英文契約書内の訴訟管轄の合意、準拠法条項の意味があきらかになります。そして、英文契約書の内容を理解するために、アメリカ民事訴訟法の一定の知識が必要になることが理解されます。
- 日本国外で民事訴訟を提起される
- 日本国外で民事訴訟を提起する
- 管轄合意規定の有効性
- 準拠法条項の有効性
- 仲裁条項
- 本案訴訟前の仮処分の実現可能性
- 特定履行を求めうる可能性
- 輸出入規制・貿易管理
- 海外腐敗行為防止法
これらの論点も、特定の契約類型との関係で理解しておくと、効率的に学習することができます。
契約書・法務書類を英語化する能力を養う
以上に紹介したトピックについては、例えば、特許実施契約のように海外、典型的に米国の特許法の知識、学習が主眼となるものもありますが、また多くは、日本語で書かれた書面・書類を英語化する能力を求められるものもあります。ここで「英語化」と表現したのは、「英訳」とはかなり様相が異なるからです。法律文書を英語化(あるいは英訳)する場合には、「和英辞典を引く」ことによって、日本語を英語にできるわけではありません。この英語化の能力は、実務で日常的に要求されているにかかわらず、適切な実習の機会がないのが現実です。
長年、契約書にととまらず、多方面の法律文書を英語化してきた経験から、次のような方法を提示したいと思います。
- 原則は、たくさんの英文契約書を、日頃から注意深く読んでおくこと以外に方法はないのですが、それでも、
- 日本語の契約書を英語化する場合、日本語で書かれている内容と同じか、極めて隣接する内容の(ネイティブが書いた)英文契約書を参考にする、あるいは「土台」にすることはできるはずであり、
- インターネットの発達とともに、ネット上に、そのような「参考書式」を見つけることは不可能ではなくなっている
- 実際、「英文参考書式」は入手できても、そこに書かれている内容が直ちには理解できないと、適切な書式も活用できない(あるいは、そもそも検索の段階で「どのような英語をキーワードにしてサーチすればよいか分からない」ことにもなりかねない)ので、個々の分野で、あらかじめ英文契約書を日本語に翻訳したペアを作成しておくことが望ましい、
ということになります。
